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生温い話ばかりです…
2024.11.21,Thu
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2011.02.13,Sun

 シャワーの湯が浴槽の底を叩いていた。トイレと同室のユニットバスは狭く、浴槽は男二人が浸かるには狭すぎた。立っていればその狭さはいくらか軽減される。
 壁に貼り付くようにして立てばどちらにしても関係ないが。
「う、ぁ…ゆきむら、たの…っ」
「綺麗にしてやるだけなんだから、変な声上げるなよ真田」
 幸村が耳元で笑う。壁に貼り付くようにしている真田の背後から手を回してきた幸村が、胸の上を這う。白い泡がその後に残って、ミント系の澄んだ匂いが鼻先を掠めた。幸村の舌が首筋を這う。
 喉の奥でひしゃげた声が、天井で跳ね返り落ちてきた。
「ひ、ゃ!」
 反響して大きくなった自分の声を聞くのも恥ずかしかった。こんなことなら一緒に入るといった幸村にもっと抵抗しておけばよかったと思うが、それができれば苦労はない。真田が幸村に逆らえるはずがなかった。仕方なく真田は自分の唇に噛みつき声を殺した。
 スポンジがないのだといってボディソープを直接掌に取って真田の肌にこすりつける幸村の指が、きわどい場所を掠めていく度に息を詰めた。
 そんなことで感じていることを幸村に知られたくなかった。けれどそれは無理な話だ。
「我慢しなくてもいいんだよ、真田」
 幸村が耳元でひっそりと笑う。指差したり直接言葉にしたわけではないが、なにを示しているか真田にもすぐに分かった。さっと首から上が赤く変わって口の中がひどく乾く。
 額に滲んだ汗はシャワーですぐに流されてしまった。恥ずかしくて俯いた真田の首筋に幸村の熱い息がかかる。のしかかってきた幸村の胸が背中に貼り付いて、彼の早い鼓動を真田に伝えた。真田の体温の高さも同じように幸村には伝わっているのだろう。
 真田は噛みついたばかりの唇を解き息を吐いた。
「あ…っ」
 直接触られることもないまま達した先端から、溢れ出た熱がプラスチックの浴槽へかかった。シャワーの湯のかからない位置で、それはこびりついたようになったままなかなか流れ落ちていってくれない。俯いた真田の視界にいつまでもひっかかって消えていかなかった。
 多分それを指してなのだろう、幸村が熱の篭もった声を真田の耳に囁く。
「なんだ、ずいぶん堪え性がない。それにすごい濃いね、たまってた? 真田」
「う、うるさい…っ」
「そんな口の利き方、してもいいのかい?」
 伸びてきた幸村の手に顎を掴まれ、無理矢理に幸村の側を向かせられる。
 背中にいる幸村を振り返るなど下手をしたら首の筋が切れて骨が折れるが、それに近い痛みも覗き込んでくる幸村の目の色に比べたらましなものだった。
「全く、ちょっと目を離すとこれだよ。本当お前は、俺が傍にいないと駄目なんだね」
「い…っゆ、ゆきむら…っ」
「お前の飼い主は誰? 真田」
 幸村の手が離れ、自由になったところで彼から目を離すことなど真田にはできなかった。不安定な体勢で立っていることもできず、壁を支えにしたままずるずると滑り落ちて浴槽の底に座り込む。見上げる先に幸村の顔と、熱を持って首を上げたそれが真田の鼻先にあった。
 口を開いた途端にそれを口の中へ押し込められるのだろうと真田は想像した。
 不快だと思わない以上、幸村の問い掛けに対する答えは出ていた。
「ふ、ぅあ…む」
 開いた口の中へ幸村を招き入れるように舌を伸ばし、先端へ唾液を塗りたくった。水の味しかしなかった中に、しばらくすると苦いような酸っぱいような味覚が混じり込んでくる。幸村の味だ。
 そう思うと頭の後ろが痺れるような感覚が走った。
「おいしい? 真田」
 幸村の問い掛けに、頷いた方がいいのか否定した方がいいのか真田には分からない。ただ夢中で舌を這わせ喉まで幸村を飲み込んだ。
 額に貼り付いた髪の毛をかき上げる幸村の指の感触が、ひどく心地好かった。
「ん…いい子だね、さなだ」
 甘い響きを持った幸村の声が髪をかき上げ表に出た耳をくすぐる。幸村も快いのだと思うと嬉しかった。
 立っていた幸村が膝を屈め浴槽の底へ腰を下ろした。狭い風呂場で幸村の体躯では脚を伸ばすこともできない。折り曲げ大きく開かれた脚の間に真田の体はあった。いつもと逆だ。
 ぞくぞくと背筋がを駆け上がっていくものに真田は声を漏らした。座り込む短い間だけ抜け出ていた幸村で口の中はいっぱいだったから、声は鼻から抜け出て獣じみた音を立てただけだった。
「牝豚みたいだよ、さなだ。かわいいね」
「ふぐ…っぅむ」
「うん。ほらもっと鳴いて?」
 ひどい言葉を向けられている筈だったが、幸村の熱に溶けた声で言われると不思議と腹も立たなかった。飲み込んで形の変わった頬を幸村の手がなぞっていく。優しい指だった。
 目を細めた真田は次の瞬間、不意の感覚に息を詰めた。
「あ、ぁあうっ」
 幸村を飲み込み舌でしゃぶることにばかり意識が向いていて、自分がどんな体勢を取っているのか真田は振り返っていなかった。幸村が膝を曲げなければ入っていられないくらい狭い浴槽だ、うずくまった真田にはもっと場所がなかった。
 自然と高く上げることになった腰に幸村の指が這い上がってきていた。膝を折っているせいで開いてしまっている尻の間を無遠慮に探って、幸村の指は真田の中へと潜り込んでくる。
「きついな。本当に自分じゃしてなかったんだ」
「ぅん、あっ、ゃぐ!」
「でも俺の指は憶えてるだろ? 真田」
 はじめから二本の指が奥を突き、真田を開こうとした。同じテニスプレイヤーという立場なのに真田より余程細い幸村の指でも、そんな場所に入るにはまだ太い。
 ゆるく関節を曲げ伸ばし真田の中を動く幸村の指に、真田はいくつも声を上げた。喉まで塞いでいる幸村のものがなければ聞き苦しい声が浴室の壁と天井に跳ね返っていただろう。
「ふ、んあ! ひゅきむら…ぁっ」
 幸村の言葉通り、真田の体は幸村の指を憶えていた。細くて美しく力強い、誰よりもテニスに愛された指だ忘れられる筈がない。それが自分の中を拡げていく感覚に真田が耐えられるわけがなかった。
 揺れはじめた腰を幸村が低く笑ってからかう。
「いやらしい奴だね、さなだ」
「う、ぅうう」
 ゆるく幸村が腰を突き上げるように動かし、喉を突かれ真田は息苦しさに涙を浮かべた。
 どうせ先刻から汗と唾液に塗れて顔はぐしゃぐしゃに汚れている。涙が流れたところで幸村に分かるとも思えなかったが、真田は慌ててかたく目を閉じた。視界が暗くなったお陰で他の感覚が大きくなる。
 奥を拡げる幸村の指に意識が焼かれそうだった。弱い場所を知り尽くしている幸村の指は、真田を容赦なく追い詰めている。指よりももっとほしいものがあることを真田に思い出させてしまった。
 それと同時に、口の中にある幸村の限界が近いことも真田は気付いた。張り詰めた熱の感触と先走りの苦さが舌を刺す。
 咄嗟に真田は手を伸ばし、それの根元を掴み堰き止めていた。
「い…っ!」
「ふ、ふまんゆきむら!」
 突然の痛みに小さく呻いた幸村に、真田は顔を上げながら謝罪した。首から上だけはどうにか持ち上げることができたが、背中から先は幸村の指を下で飲み込んでいるせいもあってほとんど動かすことができない。
 下腹から見上げる形になるとどうしても勃ち上がりきった幸村も見ることになって、真田は慌てて目を逸らそうとした。
「…っ、なんだよ? 誰にそんなこと教わってきた?」
 上気した頬と眼差しで人を殺せそうな目を向けられて、言われた言葉の意味が分からないまま真田は胸を高鳴らせた。目を逸らすことなどできる筈もない。
 頬を赤くし熱に潤んだ幸村は他で見たことかせないほど艶があったからだし、眼差しには単純に身の危険を感じたからだ。いくらか体温を下げながら、這い蹲った体勢のまま幸村を見上げて真田は口を開いた。
「い、いや誰に教わったというわけではなくだなゆきむら」
「じゃあなんだい? 事と次第によったら許さないよ」
 八割方許さないつもりの幸村の声は、真田も耳慣れたというほど聞いたことのある声ではなかった。先刻言われた言葉と合わせて考えても相変わらず意味が分からない。
 分からなかったが今真田に言えることは一つきりだった。
「……てほしいのだ…」
「なに?」
 幸村の声が刺さりそうな鋭さで落ちてくる。一度息を飲んで真田は乾きはじめた唇を舐めた。まだ残っていた幸村の味にぞっとする。たまらなかった。抑えようと思った声は女のように上擦って真田の口から出た。
「はやく、入れてくれゆきむら…っ」
「……へえ?」
 幸村が上げたのは感情の見えない声だった。乾いた平坦な声は真田を落ち着かなくさせる。大それた願いを自分が口にしている気がした。
 今までの行為は全て幸村が主導のものだった。真田はなにも望んだことはないし、逆に言えばなにも望まなくていいくらい幸村から沢山のものを真田は与えられていた。それなのにまだ足りないと真田は言ったようなものだ。
「もういっかい、言ってごらん真田」
 平坦な声のまま幸村がそういう。怒っているのだろう、真田にも容易く想像がついた。熱に浸った頭がもう少し早く冷静さを取り戻してくれればと真田は唇を噛んだ。
 幸村が欲しかった。指だけではなくて、もっと太いもので深くまで拡げてもらいたかった。それは幸村しか真田に与えられないものだからだ。久しぶりに会って声を聞いて抱かれて、そうされたくてたまらなかった。
 熱を放ってしまえば幸村でもしばらく間が空く。その時間も惜しかった。自分の破廉恥な思考と行動に真田は顔を上げられなかった。
「真田」
 幸村の言葉が重ねられるが、羞恥心はなかなか真田を手放してくれないでいた。同じ言葉をと言われていたがすこし頭の冷えた今となってはそれも恥ずかしい。
「さなだ」
 平坦だと思った幸村の声に苛立ちが混じるのを真田は聞いた。当然だろう。そろりと真田は視線だけを上へ向けた。辛うじて幸村の顔が見える。幸村は
「なあ、さなだ」笑っていた。
 目元まで赤く染めて、外にいても日に焼けることの殆どない肌色を桃色に、頬など林檎のように赤くして幸村は笑っていた。
 とろけそうな優しい笑みに真田は目を奪われた。そんな顔で笑う幸村など、はじめて見るかも知れない。
「お前は本当、かわいいね真田」
「い、っあ! ぅん、ゆ、ゆき…っ」
 奥にある幸村の指が、動きを大きくして真田の中をかきまぜ突き上げる。たまらず声を上げながら、真田の体は自然と前へと動いた。
 這うように伸ばした手を幸村が掴んでひきずりあげる。無意識の内にその手を掴んで真田は声を上げた。
「うあ! っゆきむら」
「こんな狭いところで最後までやるつもりはなかったんだけど。お前が言ったんだからね?」
「い………っ」
 抱き上げられた状態で、幸村の指が大きく入口を拡げるのが分かった。内側へ指を引っかけるようにしてきつく拡げられる痛みに呻くと、先端がその間を縫って中へと入ってくる。
 望んでいた熱の高さに真田は反射的に逃げ出そうとした。幸村がそれを許すはずもない。
「んあ!!」
「逃げるな。全部飲み込むんだよ、さなだ…っ」
 腰を掴まれ引きずり下ろされて、逃げようとした体はきつく締め付けながら幸村を奥へと飲み込まされる。
 これ以上無理だと真田が思う場所を過ぎてもまだ幸村は真田の肉を掻き分けて奥へと進んだ。しばらく忘れていた圧迫感に喉まで塞がったような気がする。
「ひ…ぃ、あ…っ」
「よすぎて死にそうって顔してるな、さなだ」
 はあっと熱くぬるんだ息が顎の下へ吐きかけられる。口の端から飲み込めずに溢れた唾液がぬくまってすぐに冷えた。
 狭い浴槽の中で幸村が真田の脚を肩へと抱え上げて体勢を整える。馴染まない内に揺さぶられて、真田は泣きそうな声を上げさせられた。
「っあ! ま、まだむっ」
「お前が言ったんだろ、さなだ」
「ぅんあ!」
 深々と奥まで突き上げられて真田は無理矢理声を奪われた。あとに上がるのは獣じみた嬌声だけだ。浴室は狭く天井と壁で跳ね返った声が真田の耳まで犯す。
 耳を塞ぎたくても幸村に突き上げ揺らされて休む暇もなくて、自分の手足がどこにあるのかも分からない。
「ひ、はっ、ひんっ!」
「さなだ、っふ、ふふ…さなだってば」
「あああっ!」
 熱にまみれながら歌うように幸村が真田の名を呼んで、飲み込んでいる場所を指で辿る。深い突き上げに混じってきた淡い感触は真田をかき混ぜるだけで、背を反らし声を上げると幸村がぐりっとその隙間から指を差し入れてきた。
 これ以上飲み込めないほど幸村に拡げられている場所は指一本でもたまらなかった。引きずられていくらか真田の意識が戻ってくる。
「出すよ、お前の中に」
「ん、あ! だ、出してくれゆきむら、ゆきむらぁ…っ!」
「ほんとう…お前はかわいい、ね」
 幸村が笑った気配があったが、意識も視界も幸村を飲み込んでいる場所もぐちゃぐちゃに溶け合っている真田には確とは分からない。
 ただ何度も繰り返し頷いた。
「ゆ、あ! ゆき、ゆきむらゆきむらっ」
「ん…っさなだ」
「あ、も、ゆきむら…!」
「さなだ…っ、ほんとおまえって」
 深い突き上げが何度か続いて、いちばん奥で幸村が熱を吐くのを感じた。焼け付きそうな熱の高さに真田も呻き、殆ど同時に達する。
 ぐたりと力を失って幸村によりかかった腹の下で、吐き出した熱がゆっくりと流れていく不快感を感じていると雨音のような水の音を聞いた。
 シャワーが流されたままになっているのを、真田はそれでようやく思い出した。



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