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生温い話ばかりです…
2024.11.21,Thu
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2012.03.05,Mon



 明日、真田が嫁に来る。
 なんの冗談でもないし嘘でもない。幸村の言葉に真田が頷いた結果だ。どのくらい真田が馬鹿なのか、幸村も計ったことはないがかなりのものだというのはよく知っている。今更驚くことでもなかった。しかし明日真田が嫁いでくることが決まって、幸村の胸にまず浮かんだのは喜びや驚きより困惑だった。
 真田はどこまで理解しているのだろうか。
 幸村はずっと真田に好きだと言い続けてきたが、真田からその返答らしいものが返ってきた試しはない。言葉の意味を理解しているかも怪しい。せいぜいが自分達は男同士だという当たり前の事実を述べただけだった。それがどうした。幸村の好意を拒む理由にも受け入れる根拠にもならない。
 そんなものを幸村は答えと認めなかったし、納得するつもりもなかった。真田を諦めるつもりなどはじめからない。かといって手に入れてしまうには真田の言葉は足りなかった。掴んで抱きしめて息を止めてしまえば簡単だが、幸村はそんなことを真田にはしたくなかった。
 だからもっと円満でそしていちばん真田にも分かりやすいだろう言葉を選んで真田に投げたのだ。それが嫁においでだったというのはやはり常人の理解を超えている神の子ならではだが。
「うむ。承知した」
 頷いた真田を眺め幸村は小さくうめいた。やはり真田は救い難い馬鹿者なのか。それとも嫁ぐという言葉が真田の辞書にないのか。お前の辞書はそんなに薄いのか。ぐるぐるとうめく幸村を、真田は不安そうに見詰めていた。
 黒い瞳の上を怯えと不安が過ぎって、幸村はすこしだけ気分をよくした。
 明日の翌日は幸村の誕生日だった。その意味も、真田は多分知らないのだろう。気付いていないし考えていない。動物のようだと言ってしまうと、しかし幸村の家で飼っている犬はもっと頭が良くて空気を読めた。柳の家で飼っている猫もそうだ。真田はそれ以下だった。
 それでも真田がやってくるのが嬉しくて、前の日の内から幸村は部屋の掃除をして支度を整えた。ベッドには新しいシーツを広げて、枕はもう一つ買ってきた。そばがらが好きだと以前真田が言っていたから、新しく買ってきた枕の方がベッドに深く沈みマットレスが傾いたようになったが仕方ない。
 一人で眠る最後の夜を過ごして、翌朝早くから玄関の前に立ち、幸村は真田を出迎えた。
「よく来たね真田」
「世話になる」
 嫁いできた相手に対して適当な文句を幸村は知らなかったから、いつも通りの出迎えの言葉を口にした。対する真田の言葉もいつも通りだ。三つ指付いて不束者ですがとやるドラマを生憎と幸村は見たことがなかったからその期待もない。
 いつもと変わりないやりとりの中で一つだけ違っていたのは、真田が手にした旅行鞄だった。祖父のものを譲ってもらったのか、すこし草臥れた色合いの頑丈そうな革の鞄を手に提げている。いつもの真田ならそこで手に持っているのはラケットバッグひとつだ。もちろんそちらは肩に背負っている。
 いつもより鞄一つ分、真田の荷物は多かった。嫁入り道具としては少ないものだろうが、家具もベッドも幸村の家に全て揃っているのだから問題はない。着替えとテニスラケットだけで真田の支度は充分なのだ。
 扉を押さえる形で玄関を塞いでいた体を半分ずらすと、真田が頭を一つ下げてその隙間を通っていく。
 すぐ近くを通る真田を、咄嗟に抱き締めて身動きできなくしてしまいたいと幸村は思った。その衝動を抑え込む理由は見当たらない。
「さなだ」
「うむっ」
 脇腹へタックルする形で抱きついてきた幸村によって、真田は悶絶した。
 強かに打ち付けた脇腹を押さえうめく真田を小脇に抱え、幸村は二階の自室へと階段を駆け上がった。幸村の部屋が今日から二人の愛の巣だった。



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