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生温い話ばかりです…
2024.11.24,Sun
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2013.06.09,Sun
4


 対戦成績はこれで俺の方が一勝多くなった。コートに転がり越前が悔しがる。
「くっそぅ!!」
 あとに英語で、俺では分からない文句が続く。
 南のいちばん高い場所を過ぎてから着いた決着に、全身から吹き出るように汗が流れ出ていた。
 崩れそうになる足をプライドだけで支え、ベンチに置いたペットボトルを取り上げ一本を越前へ放る。
「…サンキュ」
 軌道を正確に読んで寝ころんだままボトルを受け取った越前を、行儀の悪いと責めながら俺はボトルへ口を付けた。
 生温いスポーツドリンクが口の中へ流れ込んできて、飲み込むより早く吸収されていく錯覚を覚える。それでも体温よりは冷たい液体に、体の中からすこしだけ冷やされた。
 汗は相変わらず止まらなかったが。呼吸がすこしだけ落ち着く。
「真田さん、まだプロ登録してないんですよね」
「ああ。卒業してからという約束だ」
「ちぇ、つまんないの」
 何遍としている問答をまた仕掛けてくる越前の考えは知れなかった。半ばほど飲んだところで越前はコートから立ち上がり、暑いと言って木陰へと移動する。
 それはそうだろう。俺も付き合い越前の隣りへ立った。いくらか風が冷たく感じられる。
「誕生日、おめでとうございます真田さん」
「おお、なんだ知っていたのか」
「そりゃあね…」
 言葉を濁したあと、越前は俺を見上げた。自分から言った記憶はなかった。そもそも俺の誕生日は明日だ。しかし好意はありがたく受け取るものだと俺も知るようになったので、日付を訂正することはしないでおく。
 もの言いたげな越前の眼差しも深くは追求しなかった。
「…幸村さん、この時期の大会は出ないって言うんですよ。さすがに気付くって」
 あえて聞かずにいたのに、越前はとても正直にその理由を口にした。別にそれは俺のせいではないと言い掛けた言葉を俺は辛うじて飲み込む。
 俺のせいだとしても、何故だか悪い気はしなかった。今日は越前に二勝したようだと思ったが、果たして越前もそう思っているのか。
「越前!」
 不意に鋭い声が響いて、こちらを見上げていた越前が帽子の下へ隠れるようにつばを下ろす。
 しかしそんなもので隠れられるわけもなく、俺も帽子のつばを下ろし視界を覆ったが手塚にしてみれば意味のないことだろう。
「休みの学校へ忍び込むなど、なにを考えている」
 目の前までやってきた手塚が言った言葉で、俺は計られたのだとすぐに察した。咄嗟に振り返り越前を睨みつけるが涼しい顔だ。
「…越前きさま……」
「真田さんと試合するからっすよ」
「うむ。真田も真田だ。なにを考えている」
「………」
 全くの正論で責められ俺は返す言葉がない。越前の言葉など信用するものではなかった。
 握り拳を作り越前の奸計に気付かなかったのが悪いと自分を宥めるが、ふと何故だと気付く。そもそも手塚も、既にプロ入りしテニス部を引退している身だろう。
 青学に籍を置いているかも知れなかったが、休日にテニスコートへ来る理由は越前同様ないはずだ。
 俺がその疑問を口にするより、越前が早かった。
「部長こそどーしてここに?」
「もう俺は部長ではないと、何度言ったら分かるんだ越前。
 お前が戻ってきていると竜崎先生に聞いた」
「…桜乃……へえ。試合してくれるの?」
「うむいいだろう」
「待て待て! それなら俺と試合しろ、手塚!」
 そもそも手塚の言葉は昔から脈絡がない。説明を求めるにも本人はそれで充分だと思っているから怪訝な顔をされるばかりだ。そうと分かっていても脈絡のない唐突な話題の数々に、俺はどうにか自分の理解できる範囲内で追いついた。
 越前が手塚と試合をするのなら俺ともしろ。
「なんだ、お前もか」
「お前に負ける俺ではないがな!」
「真田さん明日幸村さんと試合なんでしょ、体力温存したいって言ってたじゃん」
「う…いや、手塚との試合など、取るに足らんわ」
 俺の勝利だ、そう言った俺の言葉は全く無視された。誰もなにも言わない。握った拳の中でじわりと汗が滲む。
 手塚は眼鏡を直し、すこしだけ思慮深い顔をした。そんな顔をしたからといって彼がどれほどのことを考えているのか、俺には分かった試しはない。
 次に手塚が口にしたのも、俺の想像とはかけ離れた言葉だった。
「幸村か、久しぶりだな。俺も試合させてもらっていいだろうか、真田」
「いや、駄目だ」
 思わぬ言葉だったが、俺の口から反射的に否定の言葉が出ていた。足元に腰を下ろした越前が、何かに気付いたように俺と手塚とを見比べる。
 なにかおかしなことを俺は言っているのだろうか、それとも手塚の物言いがおかしいのか。それはいつものことだ。
「明日は駄目だ」
 俺の言葉に間違いはないはずだった。
 繰り返して言うと、手塚はそうかと一つ頷いた。

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