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生温い話ばかりです…
2024.12.01,Sun
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2012.11.12,Mon

でも結局遭難はしている


 そんな裏切りがあるものかと思った。たった一人で取り残されて、陽は落ち、空には月も星も見えない。
 一面に覆った雲が全てを隠し、世界はまるで自分一人を置いていってしまったようだ。何度か呼ばわったみたものの、こだまが聞こえるばかり。
 ああ全く。
 正しく自分の状態を表す言葉を頭に思い浮かべ、ぶるりと肩を震わせ振り払った。認めてしまうと事実になってしまう気がする。
 しかし実際自分は山の中に一人立ち尽くし、荷物と言えば身一つだけだ。そもそも夜を過ごす予定でなかったから荷物は少なく、手持ちの食料は心許ない。そもそも水分がもうなかった。
 遭難と、折角打ち消したばかりの言葉が蘇ってきて背筋を凍らせた。せめて迷子と言っておきたいが、それだって状況に変化はない。
 灯り一つない山の中で、地図もなければ目印もない。すこし考え、真田はそろそろと足を前に進めはじめた。
 陽がある内に自分がいた場所は道の途上だということは確認してあった。左側は崖。だから右側へ寄り添い歩く。掌を尖った葉や枝の先が掠め痛むが構うものか。
 しばらく歩くと、ちらちらと光るものが見えはじめた。なんだろう。更に、しかし慎重に歩く。
 駆け出してそこが崖だったなんて自体は避けたかった。所謂怪談話を過分にして知らなかったが、動物的な感覚で危険は回避した。それでも自然、足は速くなる。
 掌を鋭く尖った木の葉が切り裂くけれど構うものか。
 近付きその形が窓であり、その窓を持った小屋の形を朧に知れると更に足は速くなった。窓の光りが届く範囲であれば、細い道が続いていることが分かる。
 辿るのは苦もない。真田は走った。
「やあ、遅かったね」
 鍵もかかっていない山小屋の戸を開き中へと転がり込むと、紅茶の甘い香りと共に柔らかな声が真田を出迎えた。見慣れない白と黒とすこしの赤を使ったジャージを身に着けた幸村が、優雅に紅茶を飲んでいる。
 カップではなく水筒附属のコップで、茶器の類はないことから誰かに淹れて貰った紅茶を水筒に詰めてここまで持ってきたのだろう。
 そこまでが分かって真田はがくりと膝をついた。裏切られたと思った。騙された。
「ちょっと違うね、迷ったらここに来ると思っただけだよ」
 遭難の憂き目に遭わせたのは自分ではないと幸村は主張していたが、ここまでやってくると予想して待っていたのだから同じことだ。
 一人だと気付いて襲ってきた心細さ恐怖寂しさ。どうして迎えに来てくれなかったのかと、そこまで言うつもりは口が裂けても真田にはないが。
「ほらこれでも飲んで、落ち着いて」
 椅子を勧め紅茶を入れたコップを差し出し、幸村は献身的なほど真田の世話を焼いてくれていた。そんな心細い顔を、自分はしていたのだろうか。
 黙って茶を飲むと、幸村が彼の家で淹れてくれたのと同じ味がした。確かに、小屋の明かりを見付けたときより幸村の姿を目にした瞬間の方が安堵したけれど。
 顔を上げ幸村の顔を確かめるのが悔しくて、真田はひどくゆっくりと紅茶を飲み干した。


ツイッタで見掛けた、即興小説トレーニングで書いた小咄です。サルベージ
でもあんまりできよくない…でも勿体ない……

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