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生温い話ばかりです…
2024.11.21,Thu
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2015.03.05,Thu
※幸村精市の主食は真田弦一郎。好きなトッピングはテニスまたはなにもつけずで



 真田からもらったものは全て食べてしまった。比喩的な意味でない。大きなものは細かく刻み小さなものは口の中でころころと転がしてから飲み込んだ。真田の手を経て俺の元へ来た全ては俺の血肉となった。
 最初にくれたのは菓子だった。真田と知り合ってから最初の誕生日で、多分彼の母親が持たせてくれたものだろう。後に包み紙とリボンまで綺麗に俺はたいらげた。淡いブルーのリボンは、今でも俺が好きな色だ。
 数年菓子が続いたあと花に変わった。幸村は花が好きだろうと真田は誇らしげに言った。もともと切り花を飾る趣味はなかったから食べてしまえばいいと思ったのが最初だ。以前にもらった菓子の包み紙とリボンは大切にとってあったが使い道がなかった。同じように食べればいいと気付いたのは沿うときが立ってからではない。
 はじめて真田がくれた白い薔薇の花は、棘がひとつだけ喉に刺さった。しばらくごろごろと喉に違和感を覚える日が続いて、俺は食べ方もよくよく考えなくてはならないと理解した。以来花の棘は丁寧に丁寧に刻み蜂蜜と一緒に食べることにしている。
 年月が経って真田も知恵が付き、誕生日プレゼントは実用的なものへと変わっていった。ただ浪費する主義ではないから、ボールやグリップテープはちゃんと使い、その役目を終えたあと食べた。その方が適度に草臥れ食べやすかったからというのは発見だった。俺が好んで使うグリップテープは薄荷飴のような味がし、真田が薦めてきた練習用のテニスボールは濃いアールグレイのようだった。
「欲しいものは、あるか」
 去年は病室で様々なことが禁じられていたからなにもなかった。元気になったらと、病床にいる俺に言い放ち睨みつけられただけで住むのは真田くらいのものだ。「来年は、二年分用意しよう。なにがいい」言い直し真田はそういった。だから俺は正直に答えた。
 俺がほしいのはお前だ、真田。
 春が過ぎ夏が過ぎ秋が過ぎ年が変わり冬も終わる今年、真田は真田をくれると言った通り俺の元へやってきた。真田がほしいと言った俺の言葉を、真田は深く考える素振りもなく頷いていた。一年が過ぎてその約束が反故にできるはずもないし、なにより二年分だ俺は飢えていた。
 俺が真田からもらったものを食べているのを真田は知っている。俺も隠していなかった。真田が手ずから与えてくれたものを食べないと、生きていけない体に俺はなっていた。というのは言い過ぎだが、俺を本当の意味で満たすのは真田だけだった。
 ずっと食べたかったのは真田だ。他で誤魔化し薄め先送りにしてきた空腹感がも喉奥まで迫ってきていた。ぐうと腹を鳴らす代わりに俺は真田の名を呼んだ。
「真田」
 俺の声に、一年前とは打って変わった神妙な顔をして真田は頷いた。これから自分がどんな風に食べられるのか、想像したことがあるのだろうか真田は。俺は何度も真田を食べることを夢見た。
 病室で自室で部室で教室で廊下で道で至るところで、少しでも夢想に耽る時間があれば真田を食べる想像をした。唯一それがなかったのは、テニスコートに立っているときだけだろう。ごくりと唾液を嚥下してから、俺は大きく口を開き真田を丸呑みにしようとする。ああその前に。
「いただきます」
 これから食べられようとする真田も一緒にそう言った。



幸村さんお誕生日おめでとうございます。

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