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生温い話ばかりです…
2024.05.06,Mon
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2008.03.30,Sun
続きです。特にこれと言って盛り上がりのない話です。前を読んでないとわけが分かりません。ご注意下さい。



 病室に入ると同時に伸びてきた腕に胸ぐらをつかまれ引きずられて、ベッド脇のパイプ椅子へ押しつけるようにして真田が腰掛けさせられたのは、面会時間終了三十分前だった。
 それからもう二十五分、音のない部屋の中で真田は幸村と向かい合って見詰め合っていた。
 廊下の高い位置に等間隔で取り付けられたスピーカーからは、面会時間終了を告げる放送が聞こえていた。こういったとき蛍の光はありがちだが、今流れているのはもう少し軽やかな音楽だ。音楽を音学と書いた過去のある真田には、聞き覚えがあるという以上の感情を喚起するものではなかったが。問えば幸村なら曲名を教えてくれるだろう。
 しかし焦燥感を掻き立てられるのは、分かろうと分かるまいと同じことだった。経験から追い立てられているような心地に、帰らなくてはならない気持ちにさせられる。それは真田に限った話ではないだろう。
 けれど今の真田に、その選択は不可能だった。
 胸ぐらを掴み引き摺り真田をパイプ椅子へ座らせた後、幸村は真田の手を握りしめ一向に解いてくれそうになかった。そればかりではなくひどく近い場所まで顔を寄せてきて動かない。不安定な体勢は辛くないのかとも思うが、幸村ばかりを案じている場合ではなかった。
 真田の胸で早鐘が打つ。どくりどくりと絶え間なく響くその鼓動に、まるで自分の全身が心臓になったように真田は感じた。
 近すぎる幸村の顔に目眩がしそうだった。幸村は病人だ。確かに病に罹るよりも以前に真田と幸村は想いを伝え合い、またお互いの気持ちを確かめた。しかし今の幸村は病人だった。そんな不埒なことを考えてはならないし、ましてや真田から仕掛けるなんてそんなことをしていい筈がない。
 近すぎる幸村に、真田は一度息を飲んだ。喉が動く感触が嫌に生々しく感じられる。粟立つ肌の上を落ちていく汗が生温く心地悪かった。幸村がその上をなぞっていけばどれだけ快いだろうと考えて、そんな想像をした自分を真田は叱咤した。なんということを考えるのだろうか、自分は。それは幸村に対する侮辱だった。
 幸村から触れてくることはあり得なかった。想いを伝え合いお互いに触れて、その一度きりで満足したらしい幸村から、真田にどんな要求もなかった。
 幸村はいつも優しく柔らかく性別さえ超越したような笑みを浮かべ真田を見るだけだ。いつも耐えきれず手を伸ばすのは真田だった。これではいけないとそう思うのに、いつも欲望に負けて真田は幸村の手を取っていた。手を握り上擦った声で幸村の名を呼ぶ真田を、幸村は慈愛に満ちた目で迎え入れ受け止めてくれる。
 少なくとも、真田はそう考えていた。それが幸村に誘導されてだと考えたこともなかったし、或いは柳などから指摘されたとしてもそんな筈がないと一蹴して終わりだろう。
 真田にとって幸村が自分などに劣情を抱くことは考えられなかった。ずっとそうだったしこれからもきっとそうだろう。
 その幸村が自分を好きだと言ったときの幸福は、真田の記憶の中で殆ど奇跡といってもいい高みに置かれていた。思い出すだけで頭の芯が痺れ、理性が薄れる。好きだと言ってくれたからいいのだと、勝手な理屈がまかり通る。
 ゆっくりと傾いていく首を、真田は止めなかった。鼻先を消毒液じみた澄んだ匂いが掠めていって、かつてあった幸村の薄い体臭を真田に思い出させた。体を動かした直後、汗をかいたときにだけ感じられるその匂いを幸村に指摘すると、自分には分からないと幸村はそう言った。他の誰にも言われたことがない。
「じゃあこれは、真田しか知らないんだな」
 思い違いかも知れないと否定しかけた真田を遮る形で、幸村が口にした言葉を真田は一瞬理解できなかった。分かって直後、恥ずかしさと優越感ともう一つ恥ずかしさで顔が赤くなった。
 単純に幸村の体臭を知るのが自分ひとりだという羞恥と、それを誰かに誇りたいと感じたこと、それからそんなことを誇りたいなどと考えたことがたまらなく恥ずかしかった。
「嫌か? 真田」
 顔を寄せて問い掛けてきた幸村の、体臭がほんの少し強くなるのが感じられた。くらりと目眩に襲われる。たまらせない。真田は幸村に答えることも忘れて彼に手を伸ばしていた。
「ん…」
 そんな記憶を呼び覚ましていた所為だろう、同じように近くにある幸村へ触れたとき、真田はなにも考えていなかった。彼の病気についてテニスについて今の場所時間、幸村がこんな自分をどう思うのかも思い付かなかった。最後の一つは、考えたところで真田には察することもできなかったが。
 間近にある幸村の唇へ触れると、柔らかな感触にくらくらとした。記憶の中と同じだった。消毒液の匂いが薄れ、花の香りではないがとてもいい匂いも感じられた。これもいつもと同じだ。薄い体臭の向こう、幸村の体からはいつもとてもいい匂いがした。
 くらり。強くなる目眩の中で、しかしどうにか真田の理性が立ち直る。今からでも遅くない。離れようと真田が身動いだ瞬間を狙ったように、きつく真田の手首を掴んでいた幸村の手がほどけた。
 掌の真ん中、いちばん神経が集まっている場所を幸村の指がなでていく。なんでもないようなきっと幸村にはどんな意識もなかったに違いないその感触に、真田の肌がぞくりと粟立つ。
 咄嗟に唇を薄く開き真田は小さく息を吐いた。そして深く息を吸う。
 その瞬間、喉の奥まで幸村の臭いが満ちた。舌を伸ばしその出所を探ろうとして、幸村の口の中へ真田が舌を差し入れたのは、殆ど無意識のことだった。
 舌の先になにかが触れるだけで、電流でも走ったように強い感覚が真田の背中を突き抜けていった。舌の裏側を歯でなぞるようにされて、弾かれたように肩が震える。
 下りてきた歯とで挟まれ、先端に軽く噛みつかれたようになる。痛みはなかった。ただ痺れたように他で味わったことのない感触が真田を襲う。敏感になった舌の先は丹念に吸い上げられる。何度目か電流でも流されたように体が痺れ、震えた。
 それらは実際、真田が動いた所為でたまたま幸村のどこかが触れただけなのだろう。そうと分かっていても、どれも強烈な感覚だった。息をつくことも動くことも真田は忘れた。びくりびくりと震える体は真田の意志など無関係だった。
 幸村からようやく離れられたとき、真田は酸素が足りず目の前が赤くちらつくのが分かった。まだ震えている体を支える為に仕方なく幸村の腰掛けたベッドへ手をつくと、その手首へ幸村の指がかかった。
 同じスポーツをしているとは思えない細い指だ。肌をなぞるだけのその指の感覚に、真田は震えが増すように感じた。俯いた首のすぐ傍に、幸村が顔を寄せてきているのが分かる。吐き出された息が耳をくすぐり、短い声をあげそうになった。
「三十分か」
 幸村が呟くように言った言葉の意味が、真田は分からなかった。顔を上げ疑問を口にしようとしたが、晴れやかにこれ以上はなく嬉しそうに笑う幸村の笑顔に目を奪われて、そんな言葉はどこかに消える。
 他のことなど考えられなかった。それほど幸村の顔は美しく優しく真田だけに向けられているものだった。
「ありがとう、真田」
 ふわりともう一度柔らかに笑い、今度は幸村から近付いてくる。
 あと少し。
 そう真田が思ったとき、からりと前触れなく音を立てて病室の戸が開く。振り返らなくても誰が来たのかは分かった。
 廊下に立つ人影は、面会の終了を容赦なく告げて真田に退室を促した。そう言われてようやく、ああもうそんな時刻かと真田は思った。三十分という幸村の呟きの意味を、それでもまだ真田は理解していなかった。
「…また来る」
 身を起こした真田を見て、廊下にいた人影は消える。名残惜しく幸村を見詰める真田に、幸村は頷き笑うだけだった。
 ああまたなんて不埒なことを幸村にしてしまったのか自分は。手に取るように知れる真田の煩悶を、幸村はただ笑って見ていた。誕生日なのだ、これくらいは許されるだろう。



誕生日くらい幸村さんが甘えてもいいんじゃないかしら。
真田からちゅーさせて足開かせて最終的に「入れてくれ幸村…!」とか言わせるのが幸村さんの夢です。

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