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生温い話ばかりです…
2024.05.06,Mon
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2012.07.08,Sun
4

 部室で残っているよう幸村に言われたとき、すこしだけ真田は期待した。嘘だ。大いに期待をし胸ふくらませた。
 昼休みに真田は、赤也に呼ばれ部室へ顔を出していた。昼食を食堂や教室でなく部室でとる者もいて、昼休みに部室の鍵を開けるのは暗黙の内に許されていた。真田も何度か、誘われて部室で食べたこともある。
 そのつもりで弁当を持って真田は部室へ来ていた。途中、部室の鍵を開けてきたという蓮二に会って、鍵を預けられた。赤也はもう来ていると言い蓮二は真田が来た廊下を戻っていった。
 蓮二の言葉の通り、部室に赤也はいた。
「副部長、お誕生日おめでとっす!」
 扉を開くなりクラッカーの炸裂音が真田を襲い、同時にそんな声も聞こえた。一つ二つとは思えない大きな音に、遠く校舎の方からも顔をのぞかせる者がいる。
 自分自身も耳を押さえながらしてやったりと言いたげな赤也へ、真田は十個つないだクラッカーよりも大きな声で怒鳴りつけた。
「神聖な部室で爆発物とはなにごとかあああ!!!」
「え、いやこれクラッカーで爆発は…」
「馬鹿者!!!!!」
 最後まで赤也に喋らせることなく雷を落とした真田の、声の大きさにクラッカーの倍ほど校舎から人が出てきていた。さすがにこちらを見ていると分かる顔ばかりの校舎へ戻るわけにも行かず、真田は鼻を鳴らし口をへの字に曲げ部室の戸を閉めた。
 頭を押さえうずくまった赤也を乗り越えるようにして部室の奥に進むと、奥まったロッカーに違和感がある。レギュラーになれた順に奥から並んだロッカーの一つが、見慣れない色に変わっているのだ。
 正確にいうとリボンや紙で作った花やらがべたべたと貼り付けられている。一番奥が幸村で、その一つ手前が真田、次が蓮二の並びで、真田のロッカーだけが華々しく飾り付けられていた。
 赤也がやったのだとすぐに分かった。赤也一人だけではなく、他にも手伝った者はいるのだろう。蓮二も全く知らないというわけではなかろう。
 今日は真田の誕生日だった。しゃがみ込んだ赤也が、上目遣いでちらちらと真田の機嫌をうかがう。果たしてこれは怒っていいのか喜んでやるべきことなのか。困惑しつつ後者をとったのは、やはり嬉しかったからだ。
 ベンチに腰掛け弁当を広げた真田を、相変わらず盗み見るようにしながらこちらもパンを食べ始めた赤也の手前、表情に出すようなことは決してしない。
 ただ昼休みが終わる頃には、赤也はなんだか晴れ晴れとした顔で部室を出て行った。

 部長会に参加していて部活に遅れて参加した幸村が、すこし残れといったときも真田は表情を変えたりしなかった。
「なんか嬉しそうだな、真田」
 しかしコートに入ったとき、今日の対戦相手となる桑原がそういった。
「……なに。そうか。たるんどる!」
 そんな簡単に悟られてはならなかった。気を引き締めなくてはならない。低く吐き捨てコートに立った真田は、ラケットを握りしめ自分を叱咤した。
 ちらりとコートの外へ目をやれば、幸村は蓮二と何事か話している。見られずに済んだのに、真田はすこしだけ悲しいような気持ちを味わった。これはテニスで解消するしかない。
 ネットを挟み真田と対峙した桑原は、経験から自分の未来を察した。運が悪いとしか言いようがない自分を、胸の内で慰める。大丈夫だいつものことだ家に帰ったら親父の作った上手い飯を食って風呂で泣こう。
 あえて語るのも哀れな桑原との試合が終わり、クールダウンを兼ねたいくつかのトレーニングをこなす頃にはもう日が暮れはじめていた。
 帰り支度をする他の者に混じらず、遅れて参加した分の練習メニューを消化する幸村に付き合おうと真田は顔を上げた。
「先に行って待っておいで。すぐに行くから」
「…わかった」
 真田がなにも言わない内からの幸村の言葉に、従わない理由はなかった。他の者と一緒に部室へ戻りシャワーを浴び、最後に後輩の部員達から連名で誕生日のプレゼントを貰った。
「お前達…!」
 胸を熱くしている真田に、着替えを終えた蓮二が帰らないのかと問い掛けを寄越してきたのはそのあとだった。
「幸村と約束をしているのだ」
「………そうか」
 はたしてその短い沈黙はなんだったのか。分からない真田を置いて皆帰り支度を終え部室からいなくなる。残ったのは真田一人だ。
 後輩達から貰ったのはテープやガットという極々日常的なもので、使えばすぐになくなってしまうだろう。大切にして手元に置くよりもその用途通りに使ってやるべきだと、すこし考え真田はロッカーのいちばん上の棚へそれらを置いた。
 まだ紙の花やリボンがつけられたままのロッカーをゆっくりと閉めていると、前触れなく部室の戸が開く音がする。
 振り返ると幸村が立っていた。
「みんな帰った?」
「ああ。遅かったな」
「丁度いいよ。それを待ってたんだ」
 丁度いい? 待っていた? 幸村のいう言葉の理由が分からず首を傾げた真田の前まで、幸村がまっすぐに近付いてくる。
 扉を閉める際、後ろ手に幸村が鍵をかけたことにも気付いたが、その理由もやはり分からない。
「見せてよ、真田。みんな見たって言うじゃないか、俺だけ見てないなんて狡い」
「見せてとは…」
「真田の赤フン見たいなあ俺」
 間近で、幸村がどこか甘い声でそんなことをいう。わけもなく頬が赤くなるのを感じながら真田は大きく首を横に振った。
「そ…た、他人においそれと見せるものではない!」
「それならなんでみんな知ってるのさ」
「着替えの時にでも見たのであろう! 見せたのではないふかこう」
「じゃあ着替えてみせて。ここで、今すぐ」
 真田の台詞を途中で断ち切り、幸村はとんでもないことを言った。頬の赤みが更に強くなるのを感じる。
 幸村の言っている言葉はずいぶんおかしなものだと真田でも思うものだ。他の者ならその場で否ということだろう。しかし真田にとって幸村は絶対で、彼の命令をいつもどこかで待ち望んでいた。
 こんな下らない、なんの意味があるのかも分からない言葉でも真田は従ってしまいたかった。幸村は真田にとって神に等しいのだ。神の言葉に従わない理由はない。
 けれど幸村は神ではなかったし、ここは部室でそれに学内には少なくなったとはいえまだ人の気配があった。では真田の家で二人きりだったらよかったのかと言われれば分からない。
 これまで真田と幸村の関係は親しい友人で尊敬すべき部長で目指すべき目標だった。なぜ突然下着を見せるの見せないのという話になるのか分からない。
「あ、赤フンなど見てどうするのだ!」
「知りたいの?」
 首を傾げ下からのぞき込むようにして幸村が距離を詰めてくる。
 ロッカーを背にした真田はそれ以上下がる場所もなく、幸村に近付かれた分だけ体を縮こまらせた。実際の距離は変わらないが、それで心理的な隙間は広がる。
 幸村がなにを考えているか分からなかった。知るのも怖い。けれどここから逃げ出すこともできないのだ。扉は幸村の向こうで、鍵もかかっている。幸村がかけた。
 戻ってきたとき幸村が言った言葉の意味を真田はようやく気付いた。
「知りたかったらさっさと脱いで。教えてあげるよ」
 すぐ近くで幸村が甘い声で囁く。頷く以外真田にはできなかった。





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