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生温い話ばかりです…
2024.05.06,Mon
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2009.04.18,Sat

 ふと目をやったとき、それが飛び込んできた。
 白い背中に赤い小さなあざが五つついている。四つはほぼ一列に、そこから一つだけすこし離れたところに置かれている。どこかにぶつけたのだろうか。
 柳は首を傾げ問い掛けた。
「精市、どうかしたのか?」
 日に焼けない場所だからだろう、一際白い色をした背中の突き出た肩胛骨のすこし下にあるあざを指差しながらそういった柳を、幸村は振り返りなにがと問い掛け返してきた。気付いていなかったらしい。
「ここだ」
「うーん? 見えないんだけど、鏡持ってる? 柳」
「これでいいか?」
 ロッカーの内側に備え付けられている鏡を外し示すと、なにも言わず幸村が背を向ける。後ろに回って鏡をかざせという意味だろう。鷹揚な幸村の態度に今更腹も立たない。
 黙って幸村の背中に鏡を向けて、このあたりかと柳は尋ねた。
「もうちょっと」
「下か上か言え」
「右かな」
「………」
「あ、見えた」
 小さな鏡の中を覗き込むようにしていた幸村が不意に声を弾ませる。
 怪我をしているのに嬉しそうな声だ。どうかしたのかと柳が口を開くより先に、幸村が笑みを浮かべて振り返る。
 なんだか嫌な予感がした。
「真田だよ」
「は?」
「真田がつけたんだよ。なあ真田?」
 放り投げるように幸村がそう言うと、今まで視界の外にいた真田が飛んでくる。着替えの途中だったのだろう、上半身は裸のまま下だけは制服に履き替えていた。
 それなのにどうして帽子を被っているのか、理解に苦しむ。
「す、すまん幸村! 俺のせいだ、俺のせいだっ!!」
「気にしなくていいさ、真田」
「う…す、すまん! ゆきむら!」
 その場に膝をついて土下座せんぱかりの真田に、幸村は優しく微笑みかける。
 その笑顔に真田が感極まったような声を上げて幸村の名を呼ぶが、本当に構わないと思っている人間ならわざわざ真田がしたことだと名指ししたりはしないだろう。
 いまだに幸村の正体に気付いていない真田に呆れため息をひとつ吐き、柳は極力真田を視界に入れないようにして幸村へ目を移した。
 今にも泣き出しそうな真田の顔は暑苦しかった。
「弦一郎が、なにをしたのだ?」
「うん? ああ真田、手を貸して」
「う、うむ」
 そう言って幸村が真田の手を取る。柳の視界では、幸村がその外側からひどく無骨な腕から先だけを引き入れてきたように見えた。
 その手を取って手の指を軽く開かせ、自分の背中へと幸村は導いていく。嫌な予感が決定的なものになるのを感じたが、柳は黙って幸村がすることを見ていた。
 怖いもの見たさというやつだったかもしれない。
「ほら見てごらん」
 幸村が示したのは、背中へしがみつくようにしている真田の手だった。
 並んだ四つとすこし離れた場所にある一つのあざは、丁度真田の指と同じ位置にある。そんな風にしてしがみつくには余程力を篭めなくてはならないだろう。あと随分近くでないとならない。
 たとえば抱きついているような。
 いつもの癖で詳細な分析結果を脳裏に並べ立てて、柳はげんなりとした。疲れた。
「す、すまん幸村! 次は必ず…!」
「そうだな真田、次はもっとすごいのを期待しているよ」
「う、うむ!」
 大きく頷いたもののあとになって首を傾げている真田の姿が、見えなくてもよく分かった。柳はもう何度目になるか分からない大きなため息を吐く。
 ホワイトデーの翌日の話だった。



先日出したV+H+Wの続きというか次の日の
基本、柳さんが苦労してます

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