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生温い話ばかりです…
2024.05.06,Mon
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2008.01.31,Thu
 病室を訪れるなり、真田はこう言った。
「俺が、お前を抱くのでは駄目だろうか」
 なにを言い出すのか。幸村はまじまじと真田を見詰めた。
 真田が突拍子もないことを言い出すのは、なにも今にはじまったことではない。彼は自身を常識人だと信じ疑っていないようだったが、真田と関わりを持つ大方の意見は違う。彼はどちらかと言えば非常識な人間だった。
 しかしだからと言って、それが突然こんな場所で発揮される理屈はない。
 開いたばかりの部誌を閉じて、幸村はため息を一つ吐いた。二日に一度、部誌の写しを届けてもらうのは入院当初からの決まり事だった。
 アドバイスが欲しいという真田に、幸村は何度か自分のことは気にするなと返した。実際に部活へ参加してない人間があれこれと口にするより、その場にいる真田や柳の方がずっと適当だろう。そう思っての言葉だったが、今のところ真田が頷いたことはない。
 先程の真田の発言も、彼が頷いた試しのない幸村の告白に対してだった。
「…それって、俺がこのあいだ真田に言った言葉の返事かな?」
「うむ」
 深く頷かれて、幸村はその場でぐずぐずと崩れ落ちてしまいたい気持ちにさせられた。丁度よく、幸村は今入院していて日がな一日横たわっているベッドの上だ。そうしたところで問題のある場所ではなかった。
 問題といえば、真田だった。
 幸村が是とも否とも答えなければ、彼は勝手に肯定なのだと判断を下すだろう。いや忠犬宜しく枕元でどちらかと待つかも知れない。なんにしたところで幸村にとって歓迎すべき事態になりそうになかった。崩れ溶けて今の発言をなかったことにしてしまいたい幸村の願いは叶わない。確かなのはその一点だけだ。
「あのな、真田」
「うむ」
 部屋の中にいるときくらい外せばいいものを、目深く帽子を被ったままの真田の、黒い瞳がまっすぐにこちらを見詰める。呆れ返ったため息をもう一つ吐き出しつつ、ああこの目だと幸村は思った。
 真田が好きだと幸村が自覚したのは、なにもそう最近の話ではない。彼との出会いは小学生のときで、同じ中学へ行くと決めた頃には、もう幸村は自分が真田を好きなことを知っていた。はじめて会ったときはどうだったか、実を言えばあまりいい記憶はないのだけれどそれについてはまた別の機会に。
 幸村は真田のこの目が好きだった。まっすぐにこちらを見る黒い瞳は、彼の気質までよく表わしている。誠実さとか正しさとか、嫌いになる必要がそもそもないものが真田にはあった。黒い瞳はそれかせ端的に表れている場所だった。
 しかし真田を好きだと自覚したのは、そればかりが理由ではなかった。真田の持つものは幸村だって持っていた。彼の方が多いからといって、羨ましく思うこともない。そんなものではない。
 そこまでを分っていて、それでもまっすぐにこちらを見る真田の瞳を幸村は好きだった。その目に見詰められると無条件で好意が湧く。困ったものだと、その度に思う。
 真田はいつだって、他人と言葉を交わすときには相手の目を見て喋っていた。人の目を見ずに話すのは電話の時くらいだろう(そして事実、真田は電話があまり好きではない)。そしてその度に、幸村は真田が好きだと思った。目を見て話すだけでそう思うのだから相当だ。自覚はある。
「真田が好きだ」
 幸村が最初にそう口にしたのは、好意を自覚したのと変わらない時期だった。真田は無論俺もだと力強く頷き答えた。
 真田が言う好意と幸村が口にする好意の、違いを理解させるのはひどく難しかった。
 難しいまま数年が過ぎて、先日ようやくその理解を幸村は得た。感情面から説明していくから厄介なのだ。
「真田を抱きたい」
 実践的な欲求を幸村がはじめて口にしたときの、あの真田の顔は今でも忘れられない。鳩が豆鉄砲食らったようなというのは、本当に全く言い得て妙だった。果たしてこんな慣用句を考え出したのは誰なのか、偉人と呼んで差し支えない過去の誰かに幸村は感嘆を送った。
 真田は驚いたまま身動ぎもしなかった。それはそうだろう。そんな言葉を他人から投げられた試しはないに違いない。病に罹りその結果のいくつかの経験がなければ、幸村もそんな直接的な物言いをしなかった。しかし経験を積めば短期間でも人間は変わるものだ。
 変わった結果、幸村は悟った。直接的且つ実践的な言葉でなければ真田には理解できない。それは以前から充分に承知していた。けれどそんな言葉を口にすることに躊躇いもあった。いつか真田が理解してくれるのではないかという期待も無論。
 しかし経験を積んで幸村は理解した。言葉だけ、口先だけを重ねても真田が違いを知ることは永久に来ないだろう。いや十年後二十年後というスパンなら可能性はあるのかも知れなかったが、そんな遠い未来まで考慮したくはなかった。そうなれば方法は一つしかない。諦めるははじめから選択肢に入っていない。
 好意と希望するところを口にすれば、いくら真田でも理解する筈だった。事実先日の幸村の告白を受けた真田は、面会時間ぎりぎりまで腰を下ろしたままなにも言わなかった。夕食のワゴンが運ばれてきたのでようやく我に返ったように立ち上がり、ではとそれだけを言って病室をあとにした。その声が裏返っていることを指摘する暇もなかった。
 今日だって来るとは思っていなかった。部誌を届けるのは誰でもいい筈だ。柳でも赤也でも、真田がいけないと一言言えば代わってくれる者はいただろう。そもそも届ける必要はないと、あれほど何度も言い聞かせてあったのに。
 嬉しいと思う気持ちがないわけではない。しかしその結果返された言葉があれかと思うと目眩がしそうった。結局崩れるように体を倒した幸村の隣りで、慌てた真田の手がナースコールにかかるのが見えた。やめてほしい。
「大丈夫だから、真田」
「本当か」
 安心させるようにもう一度同じ言葉を繰り返し頷き、笑いかけてやると、ようやく真田の手がナースコールから離れる。こんなことで看護師を呼んだら、なんと言われるか分ったものではなかった。
 安堵の息を吐いたところで、面会時間の終了を告げるトロイメライが響いてきた。いつもと変わらない時刻に真田はやってきた筈だったが、過ごした時間は酷く短いものに感じられた。そのくせ疲労度はいつもの比ではない。起き上がることさえ億劫だった。
 最後にざっと部誌へ目を通し、問題はないと真田に返す。丁寧にそれを鞄にしまう真田を見ながら、ふと口を突いた疑問を幸村はできるだけ穏やかな口調で声に出した。実際は胸倉を掴み揺さぶって聞き出したかったが、それは勿論おくびにも出さない。
「なんで抱くのならいいんだ? 真田」
 自分の顔が所謂女性的な造りなのは知っていた。それを理由とした同性からの告白も何度か受けたことがある。真田がそんなことに重きを置いているとは思えなかったが、しかしそんな理由でも幸村にとって得難いことは事実だった。手に入るなら手段は選ばないとは言わないが、可能性の底上げとして有効活用できるだろう。
 もし真田が望むなら、その際スカートくらいはいてもいいかと幸村は心の中で勝手な譲歩をしてみた。あとはどのタイミングで位置を入れ替えるか。
 退院後にどこで手に入れるかまでを考えていた幸村の思考を断ち切ったのは、真田の声だった。
「お前は病人だろう。その……あまり激しい運動は…」
 そこまでを言って、見るまに真田の顔が赤く染まるのを幸村は見た。頬ばかりではなく耳や首筋も赤い。見る限り夏服のシャツからのぞく首筋はどこも赤かった。
 シャツを脱がすことができれば、どこまで赤いか確かめられるかどうかと下らないことを考えてしまった自分を、あとから幸村はとても後悔した。真田のそんな変化ははじめて見るもので、驚き可愛いと思っている間に真田は病室を出て行ってしまったのだ。
 勿体ないことをしたとそう思いそれから、幸村はふと気が付いた。
 真田はもしかすると、自分を好きなのだろうか。
 それも、自分と同じ意味で。

拍手[4回]


これ前段がありますね。
まだ馴れてなくて、思い付いたシーンからまず書いているので…
近々、書いて繋げておきます。

あと続きはエロですね…エロはどうやってこのブログに置こうかしら……
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